医療ニュースハック

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GSK(グラクソ)の新MR評価体系は成功するか

GSKの新MR評価体制は成功するのか

 

逆張り」戦略で攻めるグラクソ・スミスクライン

今年度から新たな評価体系となったグラクソであるが、この新評価体制はどのような効果をもたらすのだろうか。現場では、混乱が広がっているように見える。

 

ミクスonlineによると、今年度より売上高やシェアでMRの評価を行う制度を廃止して、新たな制度での評価体系を用いて営業を行うとのことである。

 

私は、この制度が大きく日本におけるMR活動、ひいては薬物治療における情報といった面で大きく進歩するのではないかと思う。

しかし、この評価体系はどのように測定するかが非常に難しいものとなっているのも事実であろう。

 

なぜこのような評価体系へと変化したのか考察する

このような評価体系への変化は恐らく、様々な訴訟、特にGSKと中国での罰金が裏にあると考えている。

罰金530億円の贈賄事件等の訴訟によって、大きく利益の低下を招いたことから、無理に売り上げを伸ばすような従来の評価体系からクリーンでフェアな評価体系での管理を行うことによって、このようなリスクを避け、利益を上げるという方向へのシフトを行うといった意思表明がこの評価体系の変化の発表につながったことと考えられる。

先日のノバルティス事件も記憶に新しい。

 

上記の訴訟は中国の外資企業への制裁の面もあったにせよ、下された530億円の罰金はあまりにも大きい。もちろん違反であり肩を持つ訳ではないがかわいそうだ。

 

また、グラクソは講演会等の謝礼金の廃止や臨床データの開示も発表しており、クリーンな活動への変化を公に発表している。

 

訴訟リスクを避け、クリーンに売り上げを上げる方法の一つとして今回の新評価体制へと変化させたと私は考察している。

 

具体的な評価体系とは「売り上げから活動量と質へ」

従来のMRの評価体系はやはり売り上げ・シェアであることは明白である。MRといっても営業であるということは今でももちろん言われていることである。

今回のGSKの変化はその流れに大きな一石を投じた戦略になる。

 

フィリップ・フォシェ代表取締役社長によると、大きく分けて評価項目は3つであるようだ。

1.活動量

2.専門知識

3.Dr等による顧客満足

 

以上3点を重視する評価体系はどのような影響を与えるのであろうか。考察してみたい。

Drの薬剤知識の入手先は専門紙やDr間での情報交換、M3等のネットサービスなど、MRからの情報提供のみではないが、MRからの情報によって処方を変えるといったケースはまだまだ一般的であるとされている。

 

MR活動における新評価体系はどのような変化があるか考察してみたい。

 

1点目の活動量に関しては、製薬会社から見てやはり活動量=1人当たりの生産性であることから、どの製薬企業においても重視される項目であろう。

しかし、この活動量の測定が非常に難しいことも事実であるとされる。

現在、MRは1日あたり何人のDrへ情報を提供出来たかを自己申告する方法が主流とされている。つまり、自己申請での評価になる。

当たり前のことであるが、過少申告はこの評価体系であるとほとんど無いと言えるであろう。正確な評価には、GPSと会話の録音が必須であるが、そのことが公になった場合、録音されているということを知りながら会おうというDrはどのくらいいるだろう。

よって活動量の評価は、業務の主を占める活動であるが正確に測定することは難しい評価である。

 

また、2点目の専門知識であるが、1点目の活動量とは別に正確に測定することは容易い。

知識テストを行えば一目瞭然である。

しかし、そのような知識面が重視されすぎると主である活動に影響を及ぼす可能性が大きい。仕事をサボって、勉強するようになる可能性がある(これも仕事であるからサボリではないが)。

知識は必須のものであるが、この面ばかりが重視されると活動が虚偽申告される恐れもある。また、学習時間は業務に含まれるのか等の問題も出てくる。

専門知識の評価は評価は簡単であるが、売り上げと直接には関係してこないとも言えるであろう。

 

3点目の評価体系である、顧客満足度であるが、この評価項目は非常に素晴らしい評価項目である。

公益財団法人MR認定センター(旧財団法人医薬情報担当者教育センター)によるとMRとは社会的使命を持った職業であると定義されているが、この評価項目の顧客満足度がその社会的使命を果たせているかを最も表しているであろう。

しかし、この評価項目は最も測定が難しく、また売り上げにつながるのか疑問である。

一般的な顧客満足度というと自社製品が使用されてその顧客が満足するといった意味であろうが、医薬品という面では製品の顧客は正確には使用患者であるのではないかと思う。その患者が満足したかどうかは測れないだろう。

上記記事では、測るのは医師の満足度であるとされている。

しかし、この医師の満足度であれば、他社製品の紹介(自社製品を宣伝しすぎず、他社製品も紹介する)を行うことによってある程度は容易に満足度を上げることができるのではないかと思うのだ。

なぜなら他社MRは自社製品のみの売り上げを見られ、自社製品の宣伝を行うのに対して、新体制のグラクソMRは売り上げではなく満足度を見られる為、MRとして他社製品を含むフェアな情報提供が医師にとっては効果的に見える。

つまり、他社製品を勧めることによって信頼を得ることが自分の評価にもつながる評価体系なのではないかと思う。

このような行動をとった場合、他社製品の売り上げは上がり、自社製品の売り上げは下がるが、自分の評価は上がるといったどこから給料を貰っているのかわからないようなケースがあるのではないかと考えられる。

 

以上の3点は一度聞いただけであれば、クリーンで好感が持て非常に分かりやすいが、現場での測定となると非常に難しい項目もあり、また自社利益に反する行動も生まれるのではないかと考えられる。

 

 また他にもデジタルツールなどの活用も挙げられており、何を指標として業務を行うかが見えてこないのも事実である。

 

グラクソは採用基準が変わるのではないか

営業の側面が少なくなった今回の新評価体系であるが、売り上げでなく貢献度を見ることから業務内容・役割は大きく変わると予想される。

従来の評価である売り上げでは、営業スキル等が重視された採用であったと考えられるが今後は活動量に加え、サポートという側面が大きくなりツールの活用・知識量・学習姿勢等の項目が今後重要視されるのではないかと思う。

いままでの採用基準は推測にすぎないが、このような人材によって日本の医療環境は少なからず良い方向に変化していくのではないかと期待している。

 

クリーンな新評価体制に期待する

新たな評価項目は現場では混乱を招いているとの話は聞くが、売り上げでなく、質・顧客満足度を見た今後の評価体系によって、グラクソのMRは活動の方法が変わってくるのではないかと思う。

どのような結果になるか分からないが、クリーンな営業を目指す新たな戦略として顧客からの支持を得られるかが今後の業績に関わってくるとの判断であろう。

評価体系をも変えたサポート姿勢への注力が売り上げに繋がるのであれば、非常に素晴らしいことであると思う。英断をした(イギリス企業だからかな)グラクソの今後の業績に注目・期待をしている。